歌人 北久保まりこ
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毎日新聞 2008年7月6日(日) 詩歌の森へ
短歌の魅力を海外へ
毎日新聞 2008年7月6日(日) 詩歌の森へ俳句に比べると短歌はまだ海外で広く知られているわけではない。だが、このところ短歌作品の翻訳などが少しずつ盛んになり、米国などで英文短歌をつくる人も増えている。そんな折、海外での短歌朗読などで活躍する北久保まりこの和英対訳歌集『Cicada Forest(蝉の森)』(角川書店)が刊行された。翻訳は今年ドナルド・キーン翻訳賞を受賞したアメリア・フィールデン(オーストラリア在住)である。
北久保の3冊の歌集から抄録し、さらに新作92首を加え、歌人のこれまでの歩みと現在を伝えている。若い頃の父との別れや母の死を乗り越え、銀河や海、静かな森に祈りを捧げるように繊細で、だが強靭さを隠しもった歌の世界が瀟洒な装丁の一冊に収められている。歌集名は<子もわれもやはらか なりし日日のことよみがへりきぬ蝉の森にて>から採られた。静かな森に響くセミの声に、心のときめきを感じるのだという。
アメリア・フィールデンは、すでに多くの歌集翻訳を手がけている。今回も来日するたびに北久保と綿密な意見の交換をし、抒情に流れない引き締まった文体の5行の英詩に仕上げることに成功した。また、米国で英文短歌の季刊誌を発刊しているマイケル・マクリントック(短歌ソサエティ・オブ・アメリカ会長)は、シンプルで率直な言葉遣いと肉体的な五感に反応する作品の魅力を序文で述べている。
今年の9月には米国で、来年はカナダなどで北久保の朗読が予定されている。 短歌の海外紹介は着実に進んでいる。
【酒井 佐忠】