歌人 北久保まりこ
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月刊『致知』2018年4月号に掲載されました
月刊『致知』2018年4月号にインタビュー記事が掲載されました。
お書きくださいました担当者様に感謝申し上げます。
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短歌の魅力を全世界に伝えたい
北久保まりこ
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いまから二十五年ほど前に、三十代で短歌の勉強を始めた私が、現在歌人・短歌朗読パフォーマーとして世界を駆け回っていると思うと、人生の巡り合わせの不思議さを思わずにはいられません。おかげさまで今日まで三十四都市で百四十五回朗読パフォーマンスを行い、創作した短歌は約八千首。
作歌のきっかけは幼い頃に生き別れた父に、我が子の誕生を連絡しようと思ったことが始まりでした。しかし、調べると父は私が高校生の時に既に亡くなっており、感謝や謝罪を直接伝えることは叶わず、そうした行き場を失った感情の表現として辿り着いたのが短歌だったのです。
短歌はたった三十一文字の世界で、多くのことは伝えられません。しかし、どこでも書きとめられるため家庭や子育てとの両立はしやすく、私にとって短歌と生活は一体でした。
「思い出になってしまつた少年のソプラノ星の神話のやうに」
声変わりをしていく息子の成長を詠んだ歌です。子育ての悩みや喜びなどその時々の思いを歌にすることで、心がすーっと楽になりました。
一方、短歌にはスポーツや勉強のようにこうすればうまくなるという解答がないので、上達するには多くの作品に触れ、自分で学ぶしかありません。幸い、私は恩師である佐佐木幸綱先生に出逢え、数々の薫陶を受けました。百十余年以上の歴史を持つ短歌結社「心の花」を主宰されている方で、その作品には男性らしい力強さがあります。作風自体を真似るというよりも、作品から受けるエネルギーや感性がとても勉強になりました。
二〇〇二年には短歌を学ぶ仲間からマラソンリーディングという短歌朗読イベントに誘っていただき、作歌から朗読まで、ますます活動にのめり込んでいきました。
ところがその翌年に母が急逝。親族の多くが既に亡くなっていた上、私も一人っ子であり、この気持ちを共有できる人が周りにいなかったため、深い悲しみの中に落ちていきました。
そんな私を支えたのは短歌でした。歌に念いを表現すると、子育ての時と同様、奥底にあった悲しみや悩みが短歌に移り、心が軽くなるような感覚がありました。その時につくった歌を紹介します。
「青空の青が遠くにあるやうな救命救急外来に待つ」
「ああ母と話がしたい話すといふほどのことなどないのだけれど」
母の死後、過労やショックから一時的に味覚障害になったこともありましたが、呼吸をするが如く短歌を書き続けたことで、薬を飲むことなく味覚障害を完治させ、私自身も気力を取り戻すことができました。短歌には人の心も体も癒やす力があるのだと身を以て学んだ出来事です。
母への思いを綴った短歌をまとめた歌集『WILL』を発行すると、それに共鳴したオーストラリアの作家が二〇〇五年に英訳して下さり、彼女の出版記念会に招かれ初めて海外で短歌朗読を行いました。親の死に対する思いは国境を越えて伝わるのでしょう。同じ体験をされた方から数々の共感が寄せられました。
また、その時に五七五の韻律を体感することなく短歌を学ぶ外国人が大勢いることを知り、一人でも多くの人に短歌の魅力を伝えたいと、和英による朗読活動を開始しました。当時、国外でこうした活動を行う日本人は皆無だったため、すべて手探りでした。
英語はある程度できたものの、言語の壁には非常に苦労しました。同じ英語でもアメリカ英語とイギリス英語もあれば、地方によって訛りもある。私の目的は短歌を通じて、そこに込められた感情のうねりを伝えること。ですから、郷に入っては郷に従い、その地域の方々に最も伝わりやすい表現で朗読するよう心掛けてきました。
他にも壁はありました。一昨年のことです。アフリカのある大学で短歌朗読を行う予定でしたが、現地に着くとイベントの中止を知らされました。せっかくアフリカまで来たのだから何か道はないかと模索した結果、偶然、二人の教授とご縁をいただき、彼らの授業で二度も朗読する機会をいただけたのです。
本来であれば一度限りで、何名参加するかも分からないイベントでしたが、諦めずに行動したことで大勢の学生の前で二度朗読する機会に繫がりました。困難がある度に「一見不運に思われることでも、後に大きな幸運に発展することがあるので、諦めてはいけない」と痛感しています。
朗読の魅力は何と言っても、短歌に込められた感情が会場全体に伝わり、魂と魂が揺さぶられ合うような交流があることです。短歌を引き立たせるためにも、雨を彷彿させる音を出すレインスティックや美しい音色を奏でる鉄の打楽器・波紋音などの珍しい楽器を使用し、短歌の世界観を伝えています。おかげさまで「言語が分からなくても心が震えるほど感動した」といった声をいただいています。
作歌や朗読パフォーマンスは、来世もこの続きをやらせていただきたいと願うほどやりがいのある仕事です。人間の一生は短歌の歴史に比べると遙かに短いため、活動ができる限り一人でも多くの人に短歌の魅力を広めたい。
私は短歌のお蔭で、大きな病気になることなく、感情にも振り回されずに生活してこられました。これからは短歌に支えてもらった恩返しができるよう、一層活動に魂を込めて邁進したいと思います。
(きたくぼ・まりこ=歌人・短歌朗読パフォーマー)
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