歌人 北久保まりこ
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ながらみ書房『短歌往来』2019年2月号 「本卦帰り」
無人駅信濃追分から歩く 君がゐたころのやうな冬晴れ
亡くしたるのちに気付けりあの人ともつと話しておけば良かつた
愛想無き姉さんが良し 中山道追分宿に新蕎麦を噛む
迷ひ入る枝道野道獣道小さきも混じる猪(しし)の足跡
六十年ひとめぐりらし 懐かしき人亡き原に佇むごとし
宙(おほぞら)に妙なる均の保たれぬ乗りてもみたき彗星軌道
<エッセイ>
本年還暦を迎えるが、六十年もの歳月を過ごしてきた実感は無い。前回年女だった折、人生の半ばを超えたのに、成し遂げたい事のごく一部しか手掛けていないと嘆いた。あれから十二年、短歌を世界に紹介するため、三十七都市で和英朗読をしてきたが、まだまだ未熟者である。これからも日々感謝を忘れず、精進を重ねたい。