歌人 北久保まりこ
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歌壇 2008年11月号 「歌集・歌書の森」 大石道子句歌集『あかさたなあかさかな』
「あとがき」に「白い糸で綴じたものが死後にそっとみつかる、というのが憧れ」だったとある。
米国・バーモントの自然の中で詠まれた作品が、一ページに一首ずつ、英訳と見開きで、贅沢に収められている。
作者の生きた温もりを感じさせる作品が目をひいた。
・温泉はなけれど我の湯船には肌柔らかな歌う子のいて
・あかさたなと兄が言えば妹があかさかな「赤魚」と歌う
・「みのむし」と寝言をいったといわれけり宙ぶらりんの自分をみたか
・近道のはずが田舎の道にでて山美しく遠回りする
・かすかなる風のあしあと落ち葉道
・冬の雨おかめいんこのひとりごと
また、心の中にみちてきた思いを、二つの言語で表すことで、この一冊を受け入れる読者の幅が、どれだけ広がるかを作者は知っている。
そして恐らく、それによるリスクを引き受けることも、覚悟しているのだろう。
私は、和英対訳歌集を編む一人として、彼女の静かな、しかし勇気ある一歩にエールを送りたい。
今後は、この穏やかに呼吸するような詠いぶりに、揺るぎない個性が加わり、さらに完成されていくことを、心から祈っている。