歌人 北久保まりこ
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角川書店 短歌(2006年4月号) 生誕100周年特集「今だから木俣修」
歌集『谷汲』より
生きてあらば二十七歳その母に言はんとぞして口を噤みぬ
(夏・哀傷 澄高禅童子二十年忌より)
長男・高志の二十年忌に詠まれた歌である。幼いわが子に先立たれた心情は、察するに余りある。時を経ても 癒されぬ喪失感が、作品から滲んで止まない。
親族や近しい人たちを、相次いで亡くした修にとって、高志の誕生は、闇に差す光そのものであっただろう。しかしその新しい命までも、たった数年で奪われるという悲運に、見舞われてしまったのである。
毎年命日が巡る度に、修と「その母」は、あの夏の日へと引き戻される。二人は、現実の日々を生きながら、もう一つの、二十年前に止まってしまった時間を、抱えているのである。そして、「生きてあらば」と、その歳の頃を思い、青年になっているはずの子の姿を、霞のようにみるのであった。死者と生者の間に横たわる、混沌とした時を通して、無限の奥行を感じさせる作品である。
修は、「その母」に言いかけたうわ言のようなことばに「口を噤み」、止まった時の振り子の前に蹲っている。そしていつしか、一読者である私も、その動かぬ時を共有していることに、気付かされたのであった。